大沢の里山で昆虫採集、父と子の「特別な夏」。


 子どもの頃、一日が長かった。とりわけ長い夏の一日は朝から晩までカブトムシやクワガタを追いかけていた。
 悲しいことにカブト・クワガタはホームセンターでも買える時代になってしまい、ひと夏の思い出を親子で作るという、昔から当然のようにあった行事が消えつつある。
 しかし、当たり前のようにあったとはいいながら、親子で出かける昆虫採集というのは楽しい楽しい「特別な夏の出来事」の典型だった。
 世の中には、過ぎ去ってから大切なことを知るということは多々あるが、親と子の夏の特別な記憶というものもそんなひとつだろう。そして、ピッカピカに輝いていた夏を思い出し、必要以上に懐かしんでいるのは子どもではなく親の方である。

 虫とり網をかついで、親子が一緒に昆虫採集に出かけることができる里山や雑木林が、ここ大沢温泉の周辺には今もたくさんある。
 山の神様を祀る古びた神社で「クワガタに会わせてください」と手を合わせた後、境内脇に続く杉木立を抜けると、青々とした夏色の世界が広がっていた。田んぼのあぜ道やソバ畑の傍らを歩いて山懐へ。踏み出すたびにバッタやちびっ子ガエルが跳ね回る。トンボがふわりと飛び立ち、チョウが2匹戯れながら舞って行く。
 さあ、目指すはクワガタやカブトのいる雑木林だ。この時ばかりはお父さん、父親というより虫とり探検隊の隊長。子どもたちはやる気マンマンの隊員だ。クヌギやコナラ、クリやヤナギなどを探して木の幹や枝を観察したり、朽ち果てた木の根元や倒木をチェックする。ノコギリクワガタ、ヒラタクワガタ、そしてミヤマクワガタを発見。大喜びで見上げたら、ちょうどそこにはクワの実が。甘酸っぱい森からの贈り物でひと息ついた。
 陽が傾きかけた頃、くたくたになって、汗まみれで大沢温泉へ。親と子の「特別な夏」は、お宿の温泉とおいしい料理が癒してくれる。「明日も早起きして街灯の下を探そう」と張り切っていた子どもたちは、あっという間に眠ってしまった。おやすみ。

照井えりかちゃん・せりかちゃん・きょうへいくん(三つ子)、征雄さん