秋の紅葉 なめとこ山
フォト&スケッチさんぽ

小正月気分でのんびり味わう大沢温泉のすすめ

 睦月1月、雪の大沢温泉を訪ねた。
 地域に伝承される小正月の芸能「カセ踊り」を見るのもひとつの目的だったが今年は中止になったという。「カセ踊り」はその年の豊作や無病息災を祈願し、赤を基調とした衣装をまとった地元の子供たちが各家々をまわり、笛や太鼓の伴奏で元気いっぱい踊るという風物だ。もちろん大沢温泉の山水閣、自炊部、菊水館の玄関先でも踊られるのだと聞いていた。
 「カセ踊り」との出会いは来年の楽しみにとっておくことにし、白い世界に閉ざされていながら、ぬくもりに満ちた温泉と、冬ならではの美味しい料理、そして静けさに包まれながらの〈のんびり小正月〉を堪能することにしよう。
 山水閣をはじめ、菊水館や自炊部の玄関先には豊作祈願の「ミズキ団子」が飾られ、色鮮やかに、そして優しげに僕を迎え入れてくれた。
 外気はとてもヒンヤリしているけれど、こんな日こそ露天風呂に限るとばかり、部屋に荷物を置くやいなや、タオルを片手に「大沢の湯」へ向かう。ここのとても温かくて、湯量も豊富で、しかも肌にも良い湯があればこそ、真冬の冷気なんてなんのその、という気分になれる。むしろ、ふだん長風呂ではないけれど、熱くなったら凍える豊沢川を眺めるようにして上半身をさらしさえすれば、また新鮮な気持ちでアツアツの湯に身を預けることができる。その至福たるや。

5.「吟醸アイス」や「カボチャケーキ」、「抹茶ムース」や「さつまいもケーキ」などが可愛くアレンジされたデザートは「レディースプラン」のみに付く逸品。これが今、静かな人気を集めており、これはぜひ注文したいという男性の声も増加中。 6.アツアツの「しし鍋」をはじめ、「鰈真鱈白子包み」「吉次みぞれ煮」「岩手牛ロースサラダ仕立て」など、岩手の冬らしい美食がズラリと並ぶ「睦月献立」を、雪降りしきる豊沢川の見える窓辺でいただく。(この写真はイメージです) 7.8.自炊部にある食堂「やはぎ」で《冬味》を楽しむ。ホカホカの「ひっつみ定食」と「いくら丼」はどちらも840円。

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1.「山水閣」の玄関脇に作られたかまくら。 2.館内のいたるところに飾られたミズキ団子。ふわっと淡く春が香るかのようだ。 3.もう50年近く大沢温泉に通っているという三陸宮古の漁師さんと話が弾む。裸同士の付き合い。そう、初対面でも打ち解けられるのが温泉のいいところだ。

4.ぬくもりに満ちた部屋から、外の幻想的なまでの雪模様を楽しむ。当たり前だが冬だからこその贅沢といえる。

 そうしているうちに、晴れ渡っていた空に雪雲がかかり、冷たい風も強く吹き始めてきた。こうして天候の変化こそが冬の時期独特の夕暮れの合図なのかもしれない。間もなく訪れる至福の時−旬の食材を存分に活かした彩り豊かな夕食−に胸を膨らませながら、しばしロビーでコーヒーをいただきながらモノクロームの景色を眺めるなどして、黄昏を待った。
 北国岩手の冬は長い。おのずと冷涼な気候風土が育む美味なる幸も冬という季節にもっとも充実するのは当然だ。目で楽しめ、そして舌で味わえるお料理が用意されている。それは1年を通じて変わらない大沢温泉の姿勢ではあるが、料理を堪能しながら心がホクホクあたたまるというシーズンは、といえばやはり真冬がうってつけなのかもしれない。
 ぬくもりの部屋で雪景色を眺めながら《極美味な冬味三昧》を楽しむ贅沢。月替わりで用意される旬料理の数々を、大沢温泉オリジナルの吟醸酒「山水閣」とともに堪能すれば、身も心もほっこりぬぐだまって(あたたまって)いくのがわかった。

9.あたりが夕闇に包まれる頃、客室から豊沢川の向こうに広がる山肌の木々がライトアップされ、静けさに包まれる冬の大沢の夜を演出する。 10.広々したロビーでは美味しいコーヒー(400円)をいただくことができる。11.自炊部の講堂でピンポンを楽しむご家族。徳島からの来たという。

コラム 小正月行事「カセ踊り」って?

 今年、伝承芸能「カセ踊り」は地区内に不幸があって中止になった。これは昔からの習わしに従っての決まり事。一言で言って、観光イベント化した地域の祭りと、古式を守る伝統的な風習の差である。もちろん「カセ踊り」は後者。子々孫々、守り伝えられて来た年中行事として価値はここにあるように思う。
 さて、「カセ踊り」の「カセ」は「稼ぐ」から来ているとも言われる。漢字表記にすれば「稼踊り」だろう。小正月の代表的芸能に「田植踊り」がある。めでたい田植え仕事を真似し、その稼いでいる様を舞踊化することでその年の豊作を祈願する「予祝行事」というものがあるが、想像するに「カセ踊り」もそのあたりから派生した「慶祝の舞い」であると思われる。